(結局、作っちゃった)

大きなダイニングテーブルには人数分のハンバーグ。
樹生さんに言われてから作るべきか悩んだけれど、あのまま納得してやめてしまうのは、なんだか嫌だった。

(だってみんなで食事が嫌だなんて、受け入れるの嫌だもん)

どんな理由があるのかは知らない。
そこにずけずけと踏み込んでいくのは気が引けるけれど、みんなに気を使って『見て見ぬふり』をするのはもっと嫌だった。

(ちょっと押しつけがましいとは思うけど……)

樹生さん以外の人は食べてくれるかもしれない。
喜んでくれるかもしれない。
そんな期待をしていたけれど、夕食の時間になっても誰もリビングに来る気配はなかった。

いつもなら、お母さんたちとテレビを見ながら食事をしている時間だ。
和気藹々と今日あったことを話しながら、温かいご飯をみんなで食べる。

当たり前のことだと思っていたけれど、随分幸せなことだったのだと気付く。
少し恋しくなって寂しさが心を突つく。

(部屋まで呼びに行っちゃおうかな)

そう考えるけど、樹生さんの冷たい声を思い出して躊躇ってしまう。
みんなの迷惑になってしまうのは、本意ではない。

「うう〜ん」

悩みながらドアとテーブルを行き来していると、不意にドアが開いた。
開いたドアの隙間から音紘さんがひょっこりと顔を出す。

「どうしたんですか?」

「ん? いい匂いがしたから来ちゃった〜」

「ハンバーグ作ったんです。よかったら一緒にどうですか?」

嬉しくなって言うと、音紘さんが顔を綻ばせた。

「俺、ハンバーグ大好き! もらってくね〜」

「え? 一緒に食べないんですか?」

「うん。今、やりかけのゲームがあって、手が離せないんだよね〜」

(ゲ、ゲーム??)

頭にはてなを浮かべる私をよそに、音紘さんはテーブルからお皿を取って、そのままにこやかにリビングを出て行ってしまった。