それから数時間。
日が沈みかけてきたころ、ようやくあらかたの片付けが終わる。
「ふう~~~」
綺麗になったソファに座って、長く息を吐き出す。
さすがにこんなに長時間片付けをしたのは初めてだ。
けれど疲れ以上に達成感に満ちていた。
「よし、ゴミ出し済ませちゃお」
暗くなると道がわからなくなりそうだ。
そう思って、大量のゴミ袋を掴む。
けれど、重さに負けて、ごみ袋の中へと倒れ込んでしまった。
「うっ、わ……ん!」
ゴミ袋の山でもがいていると、可愛らしい顔つきの男の子と目が合う。
くるんとパーマをかけた髪とビー玉みたいに丸い瞳。
本当に星並の遺伝子は美形しかいないらしい。
「何してるの? ゴミのベッド?」
「あ……ちょっとこけてしまって」
「はは、どじっこだ」
弾けるように笑って、男の子が手を差し出した。
「手、出して」
「でも私、手が汚くて」
「いいよ。気にしない」
あっけらかんとした態度でそう言って、男の子は強引に私の手を掴む。
そのまま、ぐいっと可愛い顔からは想像つかない力で引き上げてくれた。
「ありがとうございます」
「むしろこちらこそ~。あんな汚いところ片付けるなんて、すごいね」
「私は住まわせてもらってるので、家事くらいはしたいなと思って……」
「凌から聞いたよ。俺は音紘。よろしくね」
「はい!」
なんだか渚さんとも樹生さんとも違うタイプの男の子だ、と思う。
ふわふわとした陽だまりみたいな空気感に、私の気持ちまでふわふわとしてくる。
「ゴミ捨て手伝ってあげたいけど、面倒くさいからやめとくね」
「はい! 大丈夫です」
「がんばってね~」
面倒くさいと素直に言うところに少し驚いたけれど、明るい人好きのする笑顔で言われては、少しも嫌な気はしなかった。
音紘さんは「ばいばーい」と手を振ると、リビングを出て行く。
(恥ずかしいところ見られちゃったけど、挨拶できてよかった)
改めてゴミをまとめなおして、外に捨てに行く。
案外ゴミ捨て場はすぐそこにあって、迷わずにすぐ戻ってくることができた。