「さっきの、片付けても無駄ってどういうことですか?」
「渚と音紘がなんでも捨てるのよ、リビングに。物は元あった場所に戻さないし、汚れるスピードに片付けるスピードが間に合わないの。1人で片付けるのもばかばかしいし、それならいっそリビングに入らない方がマシだと思って」
意外にも普通の理由に納得しそうになるけど、確かにこのゴミ置き場のような現状が毎日だと思うと頭が痛くなるかもしれない。
踏み込むのをためらっていると、階段の方から声が響いた。
「楓ちゃんの片付けが下手なんじゃないの~?」
振り返ると、渚さんが楽しそうに笑っていた。
瞬間、楓さんが嫌そうに顔を歪める。
「最悪」
その姿に、あんまり仲良くないのかもと感じていると、凌さんがこそっと耳打ちしてくれた。
「2人はいつもあの調子だから。大丈夫だよ」
(まぁ、いとこだからって仲良いとは限らないもんね……)
後継者候補っていう関係性がどういうものかもわからないけど、もしかしたらある意味のライバル関係なのかもしれない。
考えていると、渚さんの楽しそうな声が今度は私に飛んできた。
「そうだ。一花ちゃんが片付ければよくない?」
「え?」
「だって部外者なのに厚かましくここに住むんでしょ? 家事くらい手伝おうとか思わないの?」
「あっ、もちろん、私がやれることはやらせてください!」
頷いた私に、凌さんが慌てた様子で間に入る。
「いや、一花ちゃんは正式な特待生だし、ここには会長に言われて招かれてるから」
「でも渚さんの言う通りだし、それにリビングをこのままにしとくのも気になるから、私にやらせてほしいの」
「いやでもこんな汚いんだよ?」
「やりがいがあるから平気!」
やる気が湧いてきて握りこぶしを作った私に、説得を諦めたのか、凌さんが困ったようにこめかみをかく。
その隣で楓さんが腕を組んで、呆れたように息を吐いた。
「おじいさまが招いたって言うからどんな子かと思えば……」
「でも、星並にはいないでしょ。こんな子」
「……それが何だって言うのよ」
凌さんと楓さんのこそこそ話に首を傾げながら、私は早速手首につけていた髪ゴムで、ポニーテールにまとめた。