「変な子~。ま、面白そうだからいったん様子見してあげる」

ひらひらと手を振って、渚さんそのまま自室へと去っていく。

「綺麗な人だね。芸能人みたいでびっくりした!」

「確かにね。でも、渚さんには気を付けた方がいいよ」

「え?」

「ほら、綺麗なものにはトゲがあるっていうでしょ?」

(確かに言葉にトゲはあったけど……)

わざわざ忠告するほど、渚さんにはトゲとやらがあるのだろうか。
考え込んでいると、凌さんが微笑んで部屋に戻るよう促す。

「入寮者の説明でもしようかな。ほら、部屋に戻るよ」

頷いて部屋に戻ると、凌さんがペンで壁に文字を書き出す。
驚いて見ると、なんと壁の一部がホワイトボードになっていた。

「まず、この寮に住んでるのは基本的に星並財閥の本家の後継者候補。会長には5人の子どもがいて、その子ども……つまりは会長の孫たちが後継者候補として、ここにいるわけ」

「後継者候補……」

当たり前だけど『星並家』ということは、つまりそういうことだ。
けれどそう理解はできても、馴染みがなさすぎてどこか違う世界の話に聞こえる。

「長男の息子、「樹生」。次男の息子、「渚」とその妹の「七海(ななみ)」。三男の娘、「楓(かえで)」。四男の息子、「音紘(おとひろ)」。五男の娘、「希遥(きはる)」。

一花ちゃんを入れて、合計7名がここで暮らしてるって感じかな。あ、ちなみに俺は本家ではなく、分家の人間だよ」

(ってことは、あと4人、まだ会ってない人がいるんだ。どんな人達だろう……)

そして改めて本当に自分がこの中で異端な存在なのだと実感する。
星並家の後継者たちが一緒に暮らしているというのは、一体どんな感覚なのだろうか。
一般的にはいとこたちが集まって暮らしているということだけど、きっとそんな単純なものではないんだろう。

「会長がどんな意図で君をこの環境に放り込んだのかわからないけど、癖のある人たちばっかりだから気をつけてね」

「……うん」

真剣な眼差しで言われて、思わず素直に頷く。
確かに樹生さんといい渚さんといい、中学にいた男の子とは少し違って感じる。