(嫌な気分に、させちゃったかな……)
いきなり部外者が入寮してきたのだから、快くないことはわかる。
寂しくも申し訳ない気持ちでいると、樹生さんと入れ替わりで、別の男の子が階段を上がってきた。
(わ……美人……)
男の子に『美人』だなんて少し大袈裟な気はするけれど、その言葉が似合う。
樹生さんも凌さんも整った顔だけど、目の前の男の子はまるで絵画のように綺麗な顔をしていた。
「ねえ、自分がブスだからって俺に見惚れないでくれない?」
「えっ!」
「キミは綺麗なものを見て気分がいいかもしれないけど、俺はキミみたいな汚いブス見せられて、すこぶる気分が悪いよ」
一瞬、本当に彼が言ったのかと疑うくらい、顔とは似つかない言葉の数々。
形の良い唇からするする出てくる言葉に、思考が追い付かない。
ブスだなんて面と向かって言われたのは初めてだ。
けれど彼みたいな綺麗な人に言われたら、返す言葉もない。
「突っ立っていないでさ、どいてくれない? おブスちゃん」
「こらこら渚さん。女の子になんてことを」
「あ、凌。もしかしてこの子が特例?」
樹生さんとは違い、渚と呼ばれた彼は私が来ることを知っていたらしい。
『特例』という言葉に、改めてそれほど自分がここにいることは信じがたいことなのだと実感する。
「そう、今日からここで暮らす水瀬一花ちゃんだよ~」
「へー、ブスにしては可愛い名前だね」
「悪いね、一花ちゃん。渚さんはちょっとばかり口が悪くって」
「ううん、名前を褒めてもらえたのは嬉しい。ありがとう」
何より私もこの名前を気に入っているから、嬉しかった。
素直に感謝を伝えた私に、なぜか凌さんも渚さんも驚いた顔で見つめてきた。
(そんなに変なこと言ったかな?)
少し不安になった時、渚さんが呆れたように表情を緩めた。