「悪かった、俺が勝手に」

「違うよ!」

 彼の言葉を慌てて(さえぎ)る。謝るのは私の方だ。せっかく、こうしてこのホテルをわざわざクリスマスに予約してくれたのに。

 余計な心配をかけさせてしまった。

「今日、ここに来られて本当に嬉しかったよ。またこうしてここに泊まれるなんて夢みたいだった。本当にありがとう」

 私は勢いよく頭を下げる。去年ならまだしも、今年は無理する必要はなかったはずだ。

 それでも彼にとってもここは思い出の場所なんだろうな。

「夢花が喜んでくれたならよかった。できれば来年もここでクリスマスを過ごそう」

 屈託なく笑う彼に私はなんだか胸が締めつけられる。

「来年は……無理だと思う」

 小声で(うつむ)きがちに返すと、彼は大きな目を丸くさせて、驚いた顔をした。それはすぐに狼狽(ろうばい)に変わる。

「え、どうした? なにか気に入らなかったのか?」

 私は再度、膝の上で作っていた握り拳に目を遣る。その左手の薬指に光る重ねづけされた二つの指輪を見つめて、顔を上げた。

 無造作に膝に置かれた彼の左手の薬指にも同じ指輪がはまっている。

「あの……いや、うん」

 いざ言葉にしようとすると、こんなにも勇気がいることなのか。恥ずかしさではなくて、なにかが言葉を封じ込めて私の心臓は早鐘を打ち始めた。

 そんな私を、おかまいなしに彼は眉を寄せて不審な目でこちらを見ている。

 あー、もう!