そう言い、魔女は懐から手のひらよりも小さな水晶を取り出した。


そして、その水晶に魔女が右手をかざすと……白いモヤが水晶全体を包み込み、それが消えたときこの地下が映し出されたのだ。


『これがローズの母親だよ』


汚れたベッドの上に座る疲れきった顔をしている1人の女性に、アリムは目を奪われた。


かなり老け込んでみえるが、口元や鼻のかたちがローズにそっくりだったから。


『俺に、どうしろってんだよ』


『両親がいない悲しみは、お前がよく知ってるだろう』


魔女の言葉にアリムは目を見開いた。


一瞬、この人は人の過去まで見えるのかと思った。


しかし、『街の人から生い立ちを聞いたぞ』と言われ、その発想は打ち消された。


『あぁ、そうか』


実は、アリムとサリエには両親がいない。


妹といいながらも血のつながりはなく、互いにあの店の前に捨てられていたのだ。


2人の名付け親であり、育ての親である小柄な男はアリムが10歳の頃病死した。


それからというもの、残された妹と店を守るためアリムは必死で働いてきた。