「本当に、いいんじゃな?」


三角帽子の長いツバから見え隠れする小さな目が、少し濡れているように見えた。


「えぇ」


「現実は、過酷じゃぞ」


「もう、知ってるわ」


「勝手に飯を運んでくるババァもおらんぞ? ドレスも、自分で買う必要があるぞ」


魔女の声が震え、シワの刻まれた頬に一筋の涙が流れた。


「わかってるわ」


ローズはザイアンの手を握り締める。


「どんな苦悩にも、立ち向かうつもりよ」


その決心を目の前に、ザイアンは「そうか……」と、頷き、マントの中に片手を入れた。


「これを……」


そしてその手を開くと、赤い薬が1つ乗っていた。


「これは?」


「今、国で流行っている感染病を完治させる薬じゃ」


「これ、もらっていいの!?」


「あぁ。持っていけ」


「ありがとう!!」


ローズがそれを受け取ると、魔女は無言のまま馬を走らせた。