国に帰りたい。


だけど、帰りたくない。


その思いから、『本当に、国へ帰るの?』と、アリムに口走ったのだ。


塔へ戻りたいワケじゃない。


だけど、国にもあたしの居場所はどこにもない。


「あたしは……」


震える声で、呟くように言った。


目を閉じ、アリムの顔を思い出す。


「あたしは、大丈夫よ。アリムが一緒なら」


「何を言っておる! あの男は金が目当てだとあんなにハッキリ――」


「でも、信じてる」


ザイアンの言葉を遮り、ローズは言った。


信じてる。


妹のために、街ではすでに忘れ去られているような姫を救い出す男を。


誰も迎えに来なかった姫を迎えに来た男を。


「信じてるのよ」


もう一度言うと、ザイアンは馬を止めた。


咄嗟に、ローズはその背中をおりる。