やがてピザトーストが出来ると、皿に乗せてラップをかけ、お母さんは慌ただしく家を出ていった。

 その十分後、小学三年生くらいの男の子が寝癖をたくさんつけて起きてくる。

 お腹をポリポリと掻きながら、お母さんのピザトーストをテーブルで発見した彼はムスッとした顔で席に着いた。

 不本意だという表情でかじりつき、その頬が徐々に緩んでいくのを見て、私の胸も温かくなっていくのを感じていると、その不思議な光景は瞬きと同時に泡沫のように消えていった。


「那岐さんは……触れただけでレシピが理解できていたわけじゃないんですね……。思い出の料理がどんなふうに作られたのか、どんなふうに思い出として刻まれたのか、実際に見てたんだ」


 まだ夢うつつな状態で呟くと、那岐さんは「ああ、そうだ」と短く答えて、キッチンの前に立ち、私を振り返る。


「指示を出せ」

「……え?」

「レシピは、お前の中にあるだろ」


 あ、そういうことね。

 相変わらず言葉足らずな彼に苦笑しつつ、私は冷蔵庫から食材と調味料を出して那岐さんの前に置く。


「ソーセージは輪切りで、玉ねぎは縦に切ってください。あ、どちらも薄くお願いします。ピーマンは五ミリくらいで大丈夫です」

「わかった」


 黙々と作業にとりかかる彼の隣で、私はコンロの魚焼きグリルに火をつける。

 雄太郎くんの家にはオーブンやトースターがなかったので、お母さんは魚焼きグリルを使っていた。

魚焼きグリルは火が近いので強火にすれば一八〇度から二〇〇度、中火で一六〇度から一七〇度出る。

なので、私は先に強火でグリル庫内を温めると、次にソースの下ごしらえをすることにした。

 ボウルにトマトケチャップ大さじ二杯、オレガノ小さじ一杯、オリーブオイル大さじ一杯を入れてスプーンで混ぜ合わせる。

 それを六枚切りの食パン二枚に塗って、那岐さんが切った食材を散らし、ピザ用チーズをパラパラと乗せる。