「座って」
いつもの診察室に戻り、結果説明。

「妊娠8週ですね。おめでとうございます」
「はあ」
なんとも返事が出来ない。

「妊娠は順調です。胎児の心音も確認できたし、問題ありません」
「はい」
「しかし、」
月子先生の言葉が止まった。

「あなたの体の状態を考えると、かなり厳しいことを言わなくちゃいけないの」
「それはどういう・・・」
私は真っ直ぐに月子先生を見た。

「あなたの病気は出産に対してリスクがあるの。体調のいいときに妊娠して、万全の管理をして、計画的に帝王切開で出したとしても40週おなかに持たせるのは不可能。それだけのリスクが赤ちゃんにもかかるし、あなた自身も出血の恐怖と戦いながら、命がけのお産になると思う」
何となく、理解はしている。
「今、あなたの体は万全の状態じゃないでしょう?」
確かに。あまり体調はよくない。
「それに・・・予期せぬ妊娠なのよね?」
コクン。と、私は頷いた。

「主治医としては困ったなあって言うのが正直なところね」
そりゃあそうだろう。
あまりにもリスクがありすぎる。

「そして、これは主治医としてではなくて、小さい頃からあなたの成長を見守ってきた者として」
そう言うと、クッルと椅子をこちらに向けた月子先生。

じっと私を睨むと、
「こらっ、何してるの。嫁入り前の娘が」
「ごめん・・・なさい」
「相手を今すぐ連れてきなさい。説教してあげるから」
「いや・・・それは・・・」
困っている私を見て、月子先生がさらに困った顔をした。

「何で、紹介できないような相手とそんな関係になるの?樹里亜らしくないでしょう」
「ごめんなさい」
「黙ってることは出来ないのよ。カルテを見ればすぐに分かることだし」
本気で怒っている。

「お願いです、今日1日だけ時間をください」
「今日1日ねえ。いいわ、明日までは黙っているから自分で話しなさい」
「はい。ありがとうございました」
私は頭を下げて、診察室を後にした。