その日の夕方。

「ただいま」
玄関を空けると、珍しく渚が先に帰っていた。
「お帰り」
キッチンから顔を覗かせる。
「樹里亜、夕飯食べるだろう?」
「うん」

キッチンに行くと、テーブルにはハンバーグとポテトサラダが並んでいた。
うわー、美味しそう。


「いただきます」
手を合わせてから、ハンバーグに箸をつける。
うん。美味しい。
「味噌汁飲む?朝の残りだけれど」
「うん、いただく」

そう言えば、私達は喧嘩をしていたはず。

「体は、大丈夫なの?」
味噌汁を差し出しながら、渚が聞いた。

やはりもう知ってるのね。
まあ、同じ救命科の医師。
私が休んだ分のしわ寄せが来るわけだから、知っていても当然だけど・・・

「大丈夫。みんなちょっと大袈裟なのよ。たいしたことないのに」
「そんなこと言うんじゃない。みんな樹里亜が心配なんだ」
渚らしい反応。
「渚も心配してくれるの?」
「当たり前だ」

久しぶりに会話らしい会話が出来たことが嬉しくて、私は上機嫌でご飯を口に
オエッ。
急にむかついた。

「どうした?」
「ごめん。薬の副作用かなあ?ご飯が気持ち悪い」
「ご飯?」
「うん。おかずやお味噌汁はいいんだけど・・・」
「無理しなくていいから、食べられるものを食べたらいいよ」
「うん。ありがとう」

10日ほど続いた私達の険悪な空気も、体調不良をきっかけに元に戻った。