あまりに重い責任に、父も困惑した。
迷った末に母に連絡をし、母はアメリカに飛んできた。

その時、ジュリアさんは妊娠9ヶ月。
癌のため寝たきりのような生活だった。

「あなたが生まれるまで、私はずっとジュリアさんと過ごしたのよ。ジュリアさんは賢くて強い人だった。生まれてくるあなたへの影響を考えて、一切の治療や鎮痛剤を断わっていた」
「そんな・・・」
末期癌の痛みを我慢するなんて、出来るわけがない。
「あなたのお母さんはそんな人だったの」

「それで、ジュリアさんは苦しんで亡くなったんですか?」
「いいえ。結局あなたは予定より半月早く生まれてしまって。ジュリアさんはたった1ヶ月だけだったけれど、あなたと過ごすことができたの」
そう。よかった。

「そして、出産を一緒に過ごす中で、私達もあなたに情が移ってしまって手放すことが出来なくなった。だから、引き取ったのよ」
母さんの話を聞きながら、涙が止まらなかった。

でも、それならもっと早く言ってくれれば、こんなに苦しむ事はなかったのに。

「ジュリアさんは亡くなる前に私に言い残したの。『甘やかすことなく、強い子に育てて欲しい。世間の風なんかに負けない人間に。自分の足で歩いて行ける人間に』とね。だから、あなたが養女だって事も隠さなかったし、親戚達の噂もわざと放っておいたのよ」
キューンと、胸が痛くなった。

「ねえ樹里亜、私達の態度があなたを苦しめていたんならごめんなさい。でもね、ジュリアさんがあなたのお母さんであることを忘れたくなかったの」
大人として自立しすべての事情を聞いた今なら、なんとなく理解できる。

「ごめんなさい」
私は母さんにすがって泣いた。
「バカね、何で謝るの。あなたは立派に育ってくれたわ。周りの声なんて放っておきなさい。少しは梨華を見習いなさい」
「梨華を?」
「そう。あの子ぐらい素直に生きられたら、あなたも楽でしょう?」
「母さん。それ褒めてないわよ」

フフフ。
私と母さんは顔を見合わせ、笑った。