「自分の子供って、そんなにかわいいの?」
不意にそんなことを訊かれた父は、
「自分の命を投げ出しても良いと思えるほどにかわいいですよ」
と答えた。


それから2ヶ月後。

「ジェイ。私も子供を持つことにしたわ」
「ええ?」
突然言われ、意味が理解できないでいる父に、
「私も年齢的に時間がないし、精子バンクの人工授精を受けたの」
「人工授精ですか?」
「そう。いつもジェイが話してくれる子供の話を聞いて、私も子供を持ちたくなったのよ」

確かに、40歳と言えば出産はギリギリの年齢。
しかし、医師として経済的には恵まれているとはいえ、シングルマザーは楽な選択ではない。
それでも、子供とか血とかにこだわってしまうのはアジアの血なのだろうか?そんなことを父は思ったらしい。

結局、ジュリアさんはシングルマザーになる道を選んだ。

その後は、ジュリアさんの体調もよく順調に妊娠5ヶ月を迎えた。
すべてが順調だった。
ジュリアさんの乳がんが見つかるまでは。

たまたま検診で見つかった乳がん。
ステージⅢの進行癌だった。
すぐに放射線治療をしても、手術できるか分からない進行度。
ジュリアさんは治療をせずに子供を産むことを決めた。

子供の将来を考えれば無責任な選択かも知れないけれど、おなかの子供も1つの命と考えたジュリアさんに迷いはなかった。

「ジェイ、もう何も言わないで。私は決めたの。ただ、出来ることならば子供が幸せな家庭に引き取られるのを見届けてもらえないかしら」
そう言って、父さんに手を合わせた。