「我が家は、樹里亜にとって居心地が悪いのよね?」
確認するように言われ、
「そんな事は・・・」
答えにくくて、言葉を濁した。

「なぜなの?」
「それは・・・」
一言で説明するのは難しい。

「私は、樹里亜も梨華も大樹も同じように育ててきたつもりよ」
それは、わかっている。
父さんも母さんも平等に扱ってくれた。
「親戚達がうるさいのは確かだけど、なぜあなたはいつも逃げるの?」
「母さん・・・」

私だって好きで逃げているんじゃない。
私は父さんと愛人との間に生まれた子。
母さんにとって憎むべき相手の子。
愛されてはいけな子だから・・・

「樹里亜は、自分の名前の由来を知っている?」
「由来?」
「そう。大樹はお父さんの名前『樹三郎』から一文字を、梨華は私の名前『華子』から一文字をもらったの」
「知っている」
私は父さんの樹の字をもらって樹里亜になった。
それは、父さんだけの子だからでしょう。

「樹里亜の名前は、お父さんと私が決めたの。亡くなった樹里亜のお母さんの名前『ジュリア』をそのままもらって、お父さんの樹の字をあてたのよ」
ジュリア。それが、母の名前?
知らなかった。
それよりも、母さんから生みの母の話しを聞かされることが意外だった。

「母さんは会ったことがあるの?」
「ええ。樹里亜が生まれる一カ月ほど前から一緒に暮らしたわ。出産にも立ち会って、ジュリアさんの最後も看取った」
そんな話、初めて聞いた。