その時、
ガラガラ。
病室のドアが開き、梨華と父さんが入ってきた。

「お姉ちゃん!ひどいじゃないっ」
いきなり、梨華が声を上げた。

えええ?
驚いて振り返ると、
「何で具合の悪い母さんを残して、仕事に戻るのよ」
言いながら、私を睨み付けている。
「梨華、それはね・・」
「他人を治療するより母さんについているべきでしょう?何で置いて行ったのよ」
大きな声で、怒り散らす。

「梨華、落ち着け」
大樹が止めてくれるけれど、梨華は私に詰め寄ってきた。
「ねえ、何でそんなに冷静なの?自分の親が倒れたんでしょう?それを置いて仕事に戻るとか、ありえない」

梨華の言うことは娘として最もなのかも知れない。
母親が目の前で具合が悪くなったら、娘はうろたえて当然。
冷静に仕事に戻る私が、冷酷なのかも・・・

「梨華。いい加減にしなさい。それが、医者という仕事なんだ。樹里亜を責めるな。たとえ、私でも、大樹でも同じ事をしたはずだ」
父さんが言い聞かせてくれて、梨華は黙った。
でも、とても不満そう。

「はいはい。どうせ、悪いのはいつも私なのよね」
そう言うと、梨華は私にに近づき、
「そんなだから、『血の繋がらない子』って言われるのよ」
小さな小さな声で囁いた。
多分、私にしか聞こえない声で。

きっと、今の梨華は母さんのことで動揺している。
いつもはこんなこと言わない。
分かっているけれど・・・傷ついた。

「梨華、俺が本気で怒る前に止めろよ」
なんとなく状況を察した大樹が牽制してくれる。
「はいはい。じゃあ、私はまた明日来るから」
梨華が母さんに手を振る。

「うん。ありがとう」
母さんも笑顔で見送った。

私と入れ替わりに、梨華は帰って行った。