「お姉ちゃん、堂々としていればいいのに。すぐに逃げ出すから、また言われるのよ」
台所までビールを取りに来た梨華が、生意気なことを言う。

そうね。
それが出来れば、楽だと思うけれど・・・無理だな。

なぜなら、私はこの家の実子ではないから。
生まれるとすぐに、養女として竹浦の家に引き取られた。
父さんがアメリカ留学中に、同僚の女性がシングルマザーで妊娠し、その後末期の乳がんと分かった。
悩んだ末に、生まれた子は里子に出して欲しいと父に頼んだで私を産んだらしい。
生んだ女性は、産後すぐに亡くなってしまった。
そして、私を不憫に思った父が自分の養女として引き取った。
と言うのが、私の聞かされている話。

でも、親戚達はそう思っていない。
アメリカで父が浮気をして生まれた子供だと思われている。
だから、小さい頃からずっと嫌われてきた。


「樹里亜、ちょっと来い」
大樹が顔を覗かせた。

「何?」
「おじさんとおばさんが酔っ払って、父さんと言い合いになってる。お前の見合い話が原因みたいだから、出て行ってその気がないってハッキリ言ってこい」
お酒の入っている大樹も幾分機嫌が悪い。
どうやら、私が出て行かないと収拾がつかないらしい。
仕方なく、私は客間に向かった。

「だから、いい話なのよ。樹里亜にはもったいないくらいの。会うだけでもいいから、会ってみさせてよ」
おばさんが父さんに食い下がっている。
「樹里亜に結婚はまだ早い。余計なこと言うな」
「そんなこと言ってると、いつもでも居座られるぞ。私立の医学部まで出してやったんだから、もう十分だろう」
今度はおじさん。

うわー、入りづらい。
でも、意を決して私は戸を開けた。