「お前は、母さんから出生の状況を聞いたんだよな」
「うん」
「お前の誕生には少なからず私にも責任があると思ってきた。だから、厳しくもしたし、やりたいことは何でもさせてきたつもりだ」
確かに、私立中学からわざわざ公立高校に行きたいと言ったときも、東京のお金がかかる大学に行きたいと言ったときも、反対はされなかった。
一人暮らしだって、始めは反対されたけれど結局は認めてくれた。

「今回のことも、お前が望むことなら仕方がないと思っている。ただ、いきなり妊娠だの同棲だのと言われて動揺したんだ」
普段は見せることのない、父さんの困った顔。
「父さん・・・」
いつも寡黙で、厳しくて、ただ怖い存在でしかなかったのに・・・
どうやら、私はちゃんと愛されていたらしい。

「あの後、何度も彼が私の元へやって来たんだ。『どうか樹里亜とのこと認めてください。その為なら僕がこっちに戻ってきます』と、頭を下げたんだぞ」
私は胸が熱くなった。

「なあ樹里亜、彼は、渚君はいい青年だ。ちょっと堅物で頑固なところもお前といいバランスがとれている。医者としても優秀だ。できればうちにずっといて欲しい。でもな」
一旦言葉を切って、父さんが私を見た。
「私には、あちらのお父さんの気持ちも分かる。血が繋がらなくても、いや、血が繋がらないからこそお父さんは渚君を大事に育ててこられた。今もきっと、彼の帰りを待っておられるはずだ」
いつの間にか、涙が溢れていた。
「父さんはもう十分樹里亜に親孝行してもらったから、今度は渚君に親孝行させてあげなさい。彼のことだから、お前が言わないと帰らないだろうから」
ボロボロに泣いてしまった私の頭をポンポンと叩きながら、父さんは笑ってくれた。