その後、母さんの用意した昼食をみんなで食べて、私は山口さんを送りに出た。


「梨華の姉と分かっていて、私とお見合いをしたんですか?」
駅までの道を歩きながら、気になっていたことを訊いてみる。

「知っていました。竹浦からお姉さんの話は聞いていましたから、正直会ってみたいとも思っていました」
隠すことなく、山口さんは認めた。

梨華から私のことを?
何を言われていたのか、考えただけでも恐ろしい。

「樹里亜さんはご自分のことに随分コンプレックスを持っていたんですよね?」
「えっ?」
突然そんなこと言われても・・・

確かに、私は養女。
梨華のように実子だったらどんなに良かっただろうといつも思っていた。

「竹浦も同じなんですよ。いつもあなたが羨ましくて、両親はいつもあなたを見ているような気がして、反抗することで自分の存在感を出そうとしていたんです」
はああ?
私は足が止まってしまった。

「そんなバカな」
つい、言葉に出てしまう。

「本当です。良かったら、どこかで座りましょう」
「ええ」
私達は近くのカフェへと入った。


「竹浦は勉強もスポーツも苦手ではないんです。でも、勉強の出来る兄や姉と比べられたくなくてわざとしていなかった。夜遊びだって、ご両親に振り向いて欲しいからだったんです」
運ばれてきたアイスコーヒーを片手に、山口さんが当時を振り返る。

確かに、梨華は小さい頃から足が速かった。
勉強も中学まではそこそこの成績だったはず。
それに、私だってそんなに成績が良かったわけではない。
お金で医大へ行ったようなものだから。

「同じ事をやっても、『お姉ちゃんはよく頑張った』って褒められるけれど、私には何も言ってくれないと言っていました。お姉ちゃんはかわいそうだからって、みんなががひいきすると」
そんな・・・
「樹里亜さん。僕は出来ることならあなたに竹浦の気持ちを伝えたかったんです。あなたも随分苦労はされたんでしょう。でも、それはご両親も兄妹も一緒です。自分1人とは思わないでください」
先生らしい諭すような言葉。
普通だったら、何も知らない癖にって思ったと思う。
でも、山口さんの言葉には妙な押しつけがなくて、
「肝に銘じます」
素直に返事が出来た。