しばらくして、お茶を持って現われた梨華。

私と桃子さんに紅茶を出して、
「結衣ちゃん。お姉ちゃんとあっちでお菓子を食べましょう。ここのおばちゃんはお菓子が食べられないから」
確かに、今はつわりでお菓子が食べられない。
甘いものを見ると気持ち悪くなる。

桃子さんが行ってきなさいと言うと、結衣ちゃんは梨華について行った。


「いい子ね」
「そうですか、生意気になって。困ってるんですよ」
そうは見えない。

9歳かぁ。
10年後に私もそうなっていれるんだろうか。

「おめでただそうですね。おめでとうございます」
「うん。ありがとう」
もう病院のスタッフにも分かっているのね。

「驚いた?」
本当は別のことが聞きたいのに、そんなことを口にしていた。
「そりゃあもう。当分は噂の的でした」
やっぱりそうかあ。

独身の女性が妊娠したってだけで興味を引くネタなのに、
病院長の娘で、病院に働く医師なんて、噂には格好だろうね。

「高橋先生も休職されましたよ」
えっ。
何で渚のこと・・・
桃子さんはじっと私の目を見ていた。

「高橋先生なんですよね」
ええ?
「桃子さん?」
あまりに突然で否定することも出来なかった。

このタイミングで姿を消せば、私との関係を詮索されてもしかたがないと思う。
でも・・・

「実は、高橋先生に頼まれたんです」
はああ?
「どういうこと?」
桃子さんと渚ってそんなに親しかったっけ。



「ふふふ、最初は高橋先生に声かけられて告白でもされるのかって期待したんですよ。そうしたら、自分は休職するけれど、樹里先生のことが心配だから何かあったときのために連絡先を交換して欲しいって」
「渚がそんなことを?」
「はい。君は信用できそうだからって。女としてはあまり嬉しくないですけれどね」
桃子さんは笑いながら、携帯を差し出した。

「どうぞ、使ってください」
「ど、どうも」

桃子さんは持参したオーディオプレーヤーを取り出しイヤフォンをした。
どうやら、私は聞いてませんから掛けてくださいってことらしい。

「ありがとう、桃子さん」