みのりさんが帰り、美樹おばさんの用意してくれた部屋で、私と渚は2人になった。

約1ヶ月ぶりの時間。
言いたいことも、聞きたいことも一杯あったのに、今は何も言えない。
渚に会えて嬉しくて仕方がないのに、笑顔にもなれない。
それは、さっき見たみのりさんの涙が私の頭を離れないから。

「ねえ樹里亜」
「何?」
・・・・。
呼んだ渚も、返事をした私も次の言葉が出てこない。

私は布団から起き上がり、渚の方を見た。
つられたように渚も起き上がる。
二人して布団の上に正座して、お互いを見合った。

「ごめんな」
え?
「何で渚が謝るのよ」
「・・・」
渚は黙ってしまった。
色んな事がありすぎて、私も渚も気持ちが溢れそうになっている。

「みのりさんが、渚のお母さんだったのね?」
「ああ」
「ここに来てから、ずっと良くしてもらったのよ」
「うん」
「私、美樹おばさんとみのりさんがいなかったら・・・」
言葉に詰まった。

ここに来たときには、先のことは何も考えられなかった。
子供のことも、自分のことも、渚のことも、すべてが曖昧で決められないでいた。
でも、ここでみのりさんやシェルターに暮らす人達を見ているうちに、自分はなんて幸せなんだろうと思えた。
自分で暮らしていくだけの力があって、やりがいのある仕事があって、愛してくれる家族がいて、愛する人の子供もいて、贅沢すぎるくらい幸せ。
今まで何で気付かなかったんだろうと思った。