「何したのって、人聞きの悪い」
「山下先生だって何かなきゃ怒らないよ」
「今日は本当に何もしてないって。ただ……2日前の頭髪検査は黒スプレーして逃れたけど、今日はこの通り、完全に茶色いからね」
「スカートも短いし?」
「それはご愛嬌」

 茶髪にピアス、メイクと短いスカート、人と違うところなんてそれだけ。
 遅刻もしない、欠席もしない、早退もしない。毎日きちんと学校に来て、みんなと同じ授業を受けている。でも、見た目がみんなとかけ離れているだけで、周りからのバッシングはかなり大きい。

「規則だからなあ、春山」
「……アンタが好きにしたらいいって言ったんでしょ」
「こら、先生と呼びなさい先生と」
「古田センセーのせい」
「俺のせいにされたら、教師失格だなあ」

 そこでやっと、古田センセーはくすくす笑う。全然教師失格なんかじゃないよ、センセー。
 だって、好きなものを好きでいればいいって言ってくれたのはセンセーなんだもん。

「……わたしってそんなに変かな?」
「どこが変だと思うの?」
「みんなが守ってる規則、破ってるし」
「破っていいって言ったのは俺だからなあ」
「ちゃんと覚えてるじゃん」
「もちろん、教師だからね」

 古田センセーはよくわからない理論を並べるのが得意だ。高校三年生になってもまだ、人の言葉を全部読み取るのは難しい。

 古田センセーと出会ったのはちょうど一年前くらい。まだわたしがみんなと同じ髪色で、みんなと同じ丈のスカートをはいていた頃。
 その頃好きだった雑誌の表紙を飾ったモデルの女の子が、綺麗な綺麗な髪色をしていた。ピンクがかった綺麗な茶髪。その雑誌がわたしはたいそう気に入って、通学時間の電車の中も、放課の時間も、授業中も、隅々まで見逃さないように読み込んだ。
 そんな時、現代社会の授業後、今まで全くと言っていいほど関わりのなかった古田先生に呼ばれたのだ。

「放課後、社会科資料室にきてくれる?」って。