私が掃除道具入れの扉を閉めたのと、社会科資料室の扉が再び開いたのはほぼ同時だった。ガラリと大きな音を立てた瞬間、ヤマちゃんが大声で「ハル……」とハルヤマの途中までを言いかけて踏みとどまる。
 古田先生の姿が目に入ったからだ。

「ああ古田先生いらしたんですか、すいませんね、いきなり開けてしまって」
「大丈夫ですよ。僕もまだ出勤したばかりですから」
「ところでハルヤマ─────春山千明、見てないですかね?」
「また春山ですか。今日は見てませんねえ」
「そうですか、ありがとうございます。それではまた朝礼で」

 古田先生よりも20歳以上年上だというのに、ヤマちゃんは意外と礼儀正しくて律儀な人だ。年下の教員にもきちんと敬語を使って敬意を払う。そこが憎めないところでもあるんだけれど、そこを利用してしまってる自分もいる。
 ヤマちゃんが出て行ったのを確認したあと、私はゆっくりと掃除道具入れから身を出した。

「ありがと、センセ」
「山下先生も気づいてるんだろうけどなあ」
「どーだか。古田センセの演技いつもうまいし」

 窓際に設けられたデスクに向かいながら、古田センセーは「それはどうも」とそっけない返事をする。
 ヤマちゃんに追いかけられて困ったとき、私は大抵いつもここへ逃げ込んでくる。古田センセーがいるかどうかは五分五分くらい。センセーは大抵、私が追いかけられているのを助けてくれる。

「それで、今日は何したの」