ずっと大人になんてなりたくないと思ってた。

自分のなりたい自分でいることが強さだと勘違いしてた。周りに溶け込んで生きていくのが億劫で、なりたい自分を捨てて大人になるくらいならいっそなことならなくてもいいじゃないかって、思ってた。


でもきっと、認められないことが怖かっただけなんだ。


大人になるにつれて見えなくなるものがこわかった、自分自身の存在理由が消えてしまいそうでこわかった、私はこうして生きていくんだって、強がってたんだ。


変わることが悪いんじゃない。みんなと違う自分は悪いことなんかじゃない。それを自分自身が認めて、受け入れて、誇りにして、生きていくんだって。


「センセー、わたし、決めた」


声が出せないセンセーは、目元を右手で抑えながら頷く。それが精一杯な返事だったんだろう。


「私、自分を変えてくれたこの雑誌に関わることがしたい。どうやって関わっていくかはまだわかんないけど、でも、いま、はっきり自分のビジョンが見えたよ」


なにも見えなかった将来のこと、追いかける何かは、きっと自分の中にずっとずっとあった。


「……この容姿をさ、元に戻そうとは、私思わない。理由ができたから」


理由なく変わった自分と、理由ができたからこそ変わらないでいる選択を、誰でもない私が受け入れるんだ。


「……センセー、2度目の変わるきっかけをくれて、本当に、ありがとう」

「いつでも、……おれが背中を押した人たちは、おれよりも強かったな」


弱々しくそう言ったセンセーが、目を赤くして笑う。手にしたスマホから見えた妹さんの作品たちは、画面越しからでもキラキラ輝いて見えた。