「俺はね、否定するつもりはないんだ。むしろ人と違うことをするってこと自体、賞賛すべきことなんだと思ってる。でも同時に、それで潰れていった人のことも知ってるからこそ、春山の選択を手放しで見ていることはできないんだよ」
潰れた、のかな。センセー、本当に、センセーの妹は、そうなのかな。
「……妹さんは今何を?」
「わからないよ、探そうともしてない。すべてと縁を切って、あいつは自分の道を選んだんだ」
「……名前は?」
「……古田ナツメ」
─────フルタ ナツメ。
私は咄嗟にスマホを取り出す。その名前を急いでタップして検索すると、たくさんの作品たちが出てきた。そのどれも、学生時代のものだ。
ゆっくりとそれを下へスクロールしていく。
そしてわたしは、あるひと作品に目を奪われる。
それは、煌めいた夕日の中で、女の子がこっちを見ている写真だった。思わず指先が震えて、スマホをただみつめることしかできない。
「……センセー、わたし、この写真の女の子知ってる。このメイクの仕方も、髪の色も、同じ」
「……え?」
「わたしが、最初にずっとずっと見てた、あの雑誌の表紙を飾ったモデルなの」
─────既視感とはこういうことか。
「あの表紙とは全く違う写真だけど、だけど、似てる、すごく、撮り方が似てるんだよ」
「何言って……」
センセーの言葉を遮るように、私は1年前私が釘付けになっていた雑誌を検索する。何月号だっただろうか、あの表紙の写真を撮ったのは誰だったんだろうか。
小さなスマホの画面の中で指を滑らせて、滑らせて、─────そして。
「……見つけた」
私が釘付けになったあの雑誌の表紙を撮ったクリエイター。私はゆっくりとそのプロフィールをなぞってゆく。
名前はJuju、本名と本人写真は非公開。女性。誕生日は19××年8月20日、国籍は日本、現在は主に海外で活動を続けている。
「……センセー、誕生日は?」
「誕生日って……19××年、8月20日」
─────アタリだ。
それに、ナツメは英語にすると「jujube」、つまりJujuという名前は自分の本名から取ってるんだ。
私はJujuと名乗るクリエイターが今までに作り出してきた作品たちを開いて、スマホをセンセーの方へと向けた。
「ねえ、この写真や映像たち、なにか感じるものあるんじゃないの、センセー」
「………」
釘付けになっていた。私のスマホをゆっくりと手に取り、震える手で順番にスクロールしていく。
人間の癖なんてきっとそう簡単には直らないんだろう。学生のまだ未熟だった頃の作品しか見たことがなくたって、ここに並ぶ作品たちが自分の妹のものだって、一番近くで見てきたセンセーならきっとわかるだろう。
「どうして……」
「縁を切って、消えて、誰も自分のことを知らない場所で、1から歩いてたんだね。センセーの妹は、誰より強かったんだね」
センセーの目から涙がひとつぶ、またひとつぶ、静かに流れていくのを見ていた。
センセー、わたし、いま、わかった気がするよ。