「私は……お父さんの大事な人を奪っちゃったんだ」

 いつも明るくパワフルで家の中心だったお母さん。素直で可愛らしくて優しいまなか。そんなふたりが先に逝って、私が残ってしまった。

 お願い、許して。私ももうすぐ逝くから――。

「だから?」

 ぼそぼそと事情を話すと、遮るような声が響く。反射的に顔を上げれば穂高はまっすぐに私を見据えていた。

「全部、ほのかの推測だろ? お父さんがそう言ったのか?」

 鋭い指摘に、私は一瞬唇を震わせる。

「言っては、ない。けど私のことをよくは思ってないよ」

 いつの間に、お互い避けるようになってしまったんだろう。顔を合わせてもさっきみたいな感じだ。

「それも含めて、聞いてみればいい。お父さんの気持ちはお父さんしか知らないんだから」

 想像して私は即座に首を横に振る。

「やだよ。もういいの。なにを話してもお母さんとまなかは返ってこない」

「そうだな。でも、ほのかもお父さんもまだ生きてる。なにかが変わるかもしれない」

 今さらなにが変わるの? 変わってどうするの? どうせ世界はもう終わるのに。それなのに――。

『両親が亡くなったのは自分のせいだとか、ばちとか思うなよ。親は子どもが幸せだったらいいんだ』

 お父さんはどうなんだろう。なにを思ってるの?

 私は穂高から視線を逸らし、うつむく。

「……もしも話したとして、本当にお父さんに嫌われてたら、いらないって言われたら、私はどうしたらいい?」

 穂高はなにも答えない。しかし不意に腕を引かれ、私は顔を上げた。

「俺のものになればいいよ」

 これでもかというくらい目を開いて、私は固まった。穂高はふっと微笑んで私の頭を撫でる。

「大丈夫。俺がいるから」

 手を繋いだまま、彼は私に背中を向けて歩き出した。ぎこちなく私も続く。

「お父さんのところに行ってたら、天文台行けなくなっちゃうよ」

「いいよ。今はこっちが大事」

 目の奥がじんわりと熱くなる。胸が詰まって息も止まりそう。

 地球が終わりそうなときに、人の事情に首を突っ込んで、お人好しなのにもほどがある。

『終わりそうなんだから好きなことをしない方が馬鹿だろ』

 ああ言ってたのに。突然押しかけて、なにげなく口にした私の希望を叶えようとして。

 なんなの? なんで私に優しくするの?

 でも穂高がそばにいるから、一緒にいるから、諦めていた私が今、こうやって一歩踏み出せるんだ。変われるかもしれないって思える。

 繋がれている手に力を込める。穂高の手は相変わらず温かかった。