「俺はクドリャフカになりたいんだ」

 突然、彼が思い立ったように言ったものだから、私としてはなれるかどうかより、まずは「なにそれ?」というのが本音だった。

 そもそもなんて言ったの? クド……?

「俺さ、クドリャフカになりたかったんだ」

 今度は過去形で念を押される。力強くはっきりと言葉にしてくれたおかげで、ようやく単語として聞き取れた。

 クドリャフカ、ね。

 人物? それとも職業? 自分の頭の中にある辞書を高速でめくるけれど、初めて出会う単語だった。見当もつかないのが悔しい。

 あれこれ悩んだけれど、私はクドリャフカについて尋ねるよりも、別の角度から質問してみることにした。

「それって、どれくらいの確率でなれるの?」

 今、世界は確率に敏感だ。何パーセントという言葉を聞かない日はない。その確率を聞いてからクドリャフカについて推察してみるのも悪くないかもしれない。

 彼は私と目を合わせると、口の端を持ち上げにっと笑った。悲しいのか、楽しいのか、嬉しいのか、寂しいのか。彼の感情を読み解くのはいつも難しい。

 じっと見つめると、相手の形のいい唇が動く。

「地球が助かる確率と同じくらいだよ」

 目を見開いて呆然とする。

 さあ、私は彼を励ますべきか、慰めるべきか、はたまた応援するべきなのか。彼の答えを聞いても私はやっぱり迷ってしまった。