毎年、花穂のお母さんと僕と兄ちゃんと座ってた四人がけのテーブルの椅子にひとつ空きがあるという事実が、ものすごく残酷に感じた。

 そして、その空席について何も感じていない花穂の姿もまた、僕をやりきれない気持ちにさせる。


「じゃあケーキ切ろっか! さっきできたばっかりなんだよ~」


 僕の視線の先の花穂は、ワクワクと言った感じに、生クリームのたっぷり乗った丸いホールのケーキを持ってきた。

 ケーキの上には、バナナやメロンやパイナップルが乗っている。

 八月という季節がら、花穂のケーキはいつもこういった夏の果物が乗っている。

 小さい頃は、よく花穂はイチゴが旬じゃないことを悔やんでいたっけ。夏のイチゴは売ってたとしても酸っぱいから、と。


「ケーキ切る前にろうそくつけないの?」


 ケーキを運んでくるなり、どこで包丁で切り分けようか悩む花穂に問いかける。


「ああっ、そうだった……っ!」


 本気で忘れてたんかよ。

 少し感傷的になっていた僕だったけど、花穂のそんな姿に思わず笑ってしまった。


 花穂のお母さんも交えて、三人でケーキを囲む。

 十七本のろうそくを立てると、お誕生日の歌をうたって花穂が火を消す。

 ろうそくを取り除くとき、穴だらけになったケーキを見てみんなで笑った。

 最初こそ、みんなで談笑して、穏やかな空気が流れていた。