「遥香、ここにはその時にしかない瞬間がある。カメラはそんな瞬間を切り取って、自分以外の誰かに共有出来るんだ。それが楽しくって辞められないんだよ」

そう言って、優しく笑ったお祖父ちゃんは二年前に旅立ってしまった。
私は共働きの両親と、近居の祖父母に育てられた。
幼い頃は、両親より祖父母との時間が長くお祖父ちゃん子だったし、写真館での仕事も飽きもせずよく眺めていたものだ。

そんな思い出が一気に溢れだしてきて、私は写真集を食い入るように眺めた。
そして、決心をすると私はその本を書架に戻すと駆け出した。

目指した先は、祖父母の家だった。
お祖父ちゃんが亡くなってからは、父も叔父も跡を継げなくって写真館は閉店した。
店舗入口のシャッターは、もうずっと降りたままだ。
母屋の方の玄関に回って声を書ける。

「お祖母ちゃん!お邪魔するよ!」

私の声に、お祖母ちゃんは奥の台所から顔を出した。
「あら、遥香。元気そうね。今日はいきなりどうしたの?」

春先のお祖父ちゃんの法事のあとはちらっとしか顔を出していなかった。
そんな私が急に来たのでちょっと驚いているが、お祖母ちゃんはニコッと笑って聞いてきた。

「お祖母ちゃん。お祖父ちゃんのカメラって残ってる?」
私が聞いた言葉に、また少し驚いた後でお祖母ちゃんはニコニコと笑っている。
「まぁ、おじいさんはホントに遥香を理解してたのねぇ。おいで、こっちにあるよ」
そう言ってお祖母ちゃんは、私を写真館の方に案内した。

辞めて二年になるのに、お祖父ちゃんの写真館は未だに綺麗に手入れされていた。
あまりにも以前のままで、驚いているとお祖母ちゃんは私を見て笑う。

「おじいさんの大事だった場所だからねぇ。元気なうちはここは綺麗にしときたいんだよ。ほら、おいで」

そう言われて、お祖父ちゃんの仕事道具の棚の前に行けば、複数のカメラが置かれている。