そんな大人な信楽さんが、どうしてこんな子どもの私なんだろう。
疑問しか湧いてこなくって、思わず口が開かず返事が出来ないままだ。
「無理かな。分かっちゃいたよ。遥香ちゃんは全く俺を意識してなかったから」
苦笑を浮かべる信楽さんに、私の胸がズキっと痛みを覚えた。
あまりの痛さに、私は思わず自身の胸を押さえた。
「ごめんな、唐突で。でも、これから世界の広がる遥香ちゃんに何も言わないままでは居られなかった。いい大人が情けないよな。忘れて」
その顔は初めて見た表情で、私の胸はじくじくと痛む。
この痛みはなんなのか、どうして痛むのか、それが分からなくって、もどかしくって苦しい。
そんな顔見たくない。
私は、あなたに笑ってて欲しい。
そう思った時するりと出たのは、シンプルで素直な気持ちの言葉だった。
「忘れない、好きだから。私も信楽さんが好き」
呟くような小さな声だった、けれど個室に二人きりだった私の声はしっかり信楽さんに届いた。
「遥香ちゃん?!」
驚いて、椅子から立ち上がって私の前に来て手を掴むと、信楽さんはもう一度聞いてきた。
「俺を好きって本当? 信じていい?」
私の手を持つ信楽さんの手は、少し震えていた。
「うん、私も好きだよ。ごめんね、好きって今日初めて気づいたから返事が遅くって」
そう言った私を、信楽さんはぎゅっと抱きしめて言った。
「嬉しい。遥香に好きって言ってもらえて。遥香、付き合ってくれますか?」
「はい。よろしくお願いします」
こうしてここに、年の差十八歳のカップルが誕生したのだった。
この話を、友人達にして盛り上がったのは言うまでもなく、私は春休みいっぱいからかわれたのだった。