お母さんを見送ると、私も今日で最後になる制服に袖を通し、まだ寒いのでコートとマフラーをして家を出た。

「お、これで制服も見納めか。乗っていきますか、お嬢様?」

玄関の鍵を閉めて振り返れば、そこには相変わらずの明るい髪の信楽さんが立っていた。
その背後には、信楽さんの愛車のクーパーが停まっている。

「え?なんでいるの?」
するりと出た素直な疑問の言葉に、信楽さんはフハッと笑うと言った。
「昨日の夜、香澄さんから連絡があったんだよ。康介さんは仕事だし、自分も呼び出されそうな気がするから、もしも都合が着くなら見に来てやってくれないか、ってな」

やはり、ベテラン助産師の感だろうか。
何となく感じてたんだろう、お母さんってそういう所あるし。
「それで、信楽さんは都合大丈夫だったんですか?だって昨日の夜でしょ?」

そう私が聞けば、少し照れくさそうに信楽さんは頬を掻きつつ言った。
「実は、初めから見に行くつもりで有給取ってたって言ったらどうする?」
さすがに、ポカンと口を開けてしまったが、私はすぐさま意識を戻すと言った。

「妹の卒業式に行ってみたい、お兄ちゃん的な?」
そんなツッコミにちょっと苦笑して信楽さんは返事をした。
「とりあえず、今はそれでいいや。で、乗ってくの?」
「乗っていきますとも!」

こうして、最後の通学は車で優雅にご登校となった。
まだ寒さもある三月上旬。
桜並木の蕾はまだ固そうだが、これもあと二週間くらいで咲き出すんだろう。
今年はどこかで綺麗に咲く桜も写真に撮りたいななんて考えてるうちに、学校側のパーキングに車は停まった。

「遥香ちゃん。卒業式終わったら、何か予定はある?」
その問いに私は苦笑しつつ答える。
「それがさぁ、私の友達ってみーんな彼氏持ちなの。式のあとは彼氏とお祝いって言って相手してくれないんだよ」
私の返事に、心なしか信楽さんがホッとしたような気がした。