ジャンク、クレアそしてクライネスの三人は父親と母親に見守られている赤ちゃんに戻れたパレルを見ながら病室の中で微笑んでいた。
でも、パレルからはその姿はもう見えない。

「聞こえたかな? 最後の俺の声」
ジャンクは心配そうに呟いた。
「聞こえたわよ、きっと」
クレアが優しく微笑む。
「大丈夫ですよ。ほら、あんなに明るく笑ってますもん」
クライネスも赤ちゃんを見ながら思わず笑った。
「彼女の召喚の時は『俺は泣きじゃくってたから、いい記憶を見せられなかったんだ』・・・なあんて本当のことはパレルには言えないわよね」
クレアが悪戯っぽくジャンクをからかう。

「うるせえ! 言うな!」
「ふふ・・・」
「ジャンク、あなた、自分からパレルの教育係を名乗り出たらしいわね。ゼウスに聞いたわ」
「あいつが死んだ日、ゼウスのところに頼みに行ったんだ。その時に約束したんだ。パレルを研修生のトップにさせることができたら、召喚期間を経ずに現世に戻してやるってな・・・」
ジャンクは優奈の死をただ見ていることしかできなかった。命を助けることも、まともに召喚させてやることもできなかった。
だから、どうしてもパレルを救いたかった。自分の手で。

「じゃあ、最初からパレルを特待生にさせるつもりだったの? だからあんな無茶ばっかり・・・数百人いる研修生のトップだなんて・・・」
「俺も正直、トップを取るなんて自信は全く無かったさ。でも、やるだけのことはやりたかったんだ。あいつのために」
「本当によくやったわね、パレル」
「ああ、たいしたヤツだよ」
「教育係が良かったのかな?」
「まあな!」
「でも、まさかリヴァイブに成功するなんてね。ゼウスもびっくりしてたわ。研修生では前代未聞だって」
「そう言えばお前か? そのことゼウスにチクッたの」
「チクッたなんて人聞きが悪いわね。ご報告・・・って言っていただけるかしら」
「・・・ったく」
「あなたにも今回のパレルの教育担当した功績で、天使昇格の通知が行ったでしょ」

研修生の教育係は、受け持った研修生が優秀な成績を修めると、その功績が認めらて褒美が与えられる。
「チッ、何でも知ってやがんな。でもその話は断ったぜ」
「何で?」
「俺は死神が好きなんだよ」
ジャンクは気取った感じで答えた。
「ふふ・・・ジャンクならそう言うと思った。昔から変わらないね」
「・・・・今、怒るところか? 照れるところか?」
「どちらでも・・・」
クレアはちょっと呆れ顔で苦笑いをする。

「それにしても何だよ、昇格って? 俺たち死神は天使より身分は上でも下でもねえ!」
ジャンクは昇格させるという言葉が気に入らなかった。
天使と死神は人気の違いであって、身分の上下はない、そう思っていた。
「そうね。それにジャンクに天使の制服は似合わないわね。想像しただけで笑いが止まんないわ。ねえクライネス」
「そうですね・・・確かにちょっとキツイですね」
「違いねえ!」
なぜか自慢げに答えるジャンク。
「あの、ここは怒るところだよ、ジャンク」
「え、そうなのか?」
三人は顔を見合わせた。
「フフッ・・・」
みんな思わず笑いが漏れた。

「パレル、今度は幸せになれるといいわね」
「ああ、なれるさ」
三人は赤ちゃんを見守りながら、ゆっくりと天界へと昇っていった。

保育器の中にいる赤ちゃんを父親がゆっくりと抱き上げる。

「結菜、パパだぞお!」
「結菜、ママよ!」
赤ちゃん(パレル)を二人で強く抱きしめた。

パレルはパパとママの温もりを感じていた。

 ―あったかい・・・。

その感覚は夢でも記憶でもなかった。
父親がさらにぎゅっと赤ちゃんを強く抱きしめた。
「きゃっ、苦しいよパパ」
もちろん声にはならない。
心の中での叫びだ。

「パパ、ママ、今度は絶対に親孝行するからね!」
その笑顔は、まるで天使のように輝いていた。