「じゃ、お礼に智基くんにオムライスを一口あげちゃいま~す」

 相田さんがオムライスをスプーンですくって智基くんの口元に近づけた。

「え、いいよ」

 智基くんが困惑顔になったが、相田さんはなおも勧める。

「いいの、いいの。遠慮しないで。はい、あーん」

 智基くんは少し頬を赤くした。

「いや、いいよ。さすがに悪いし」

 ふたりのやり取りに、胸がギューッと締めつけられたように苦しくなった。

 そのとき同じ経済学部の男子がふたり通りかかり、ひとりが智基くんの肩に肘を置いてニヤニヤする。

「おいおい、こんなところでいちゃつくなよ」
「いちゃついてなんかないって」

 智基くんが仏頂面で言い、肩に乗せられていた肘を押しやった。

「またまた~。おまえら美男美女でお似合いだぞ?」

 からかうように言われて、智基くんが怒ったような声を出す。

「やめろって。変なこと言うなよ。相田さんの迷惑になる」

 相田さんは頬に両手を当てた。

「えー、私、気にしないよ? 智基くんとだったら何を言われても嬉しいかなーっなんて」

 男子が「ひゅーっ」と口笛を吹いて、相田さんはクスクスと笑う。

 私は居心地が悪くなって、存在を消そうと肩を丸めた。

 チラリと見た智基くんと相田さんは……どんなに否定したくても、やっぱりお似合いだと認めざるを得ない。