「え、や、そんな。悪いからいいよ。それにトレイの上だし、床に落ちたわけじゃないからキレイだと思うし……」

 私は口の中でもごもごと言った。智基くんは箸の上下を返して逆さ箸にして、彼の竜田揚げを一つつまんだかと思うと、私の皿に置いた。びっくりする私の前で、彼はトレイの上の竜田揚げを挟んで彼の皿にのせる。

「じゃあ、交換」

 私が「えっ」と声を上げたときには、智基くんは皿を自分のトレイに戻していた。

「あの、そんなの……」

 悪いよ、と言おうとしたとき、相田さんがランチを買って戻ってきた。オムライスプレートをテーブルに置いて智基くんの隣に座りながら、うらやましそうな声を出す。

「あーっ、いいなぁ。実織ちゃんだけずる~い。私も竜田揚げほしいな~」
「相田さんも竜田揚げ好きなの? しょうがないなあ。じゃあ、最後の一つ、どうぞ」

 智基くんは軽く苦笑して、相田さんのオムライスの横に竜田揚げを置いた。

「やったぁ。智基くんに竜田揚げもらっちゃったぁ」

 語尾にハートマークでも付きそうなくらいかわいらしい声で相田さんが言った。

 本当にかわいくて、うらやましい。スタイルがよくてガーリーなファッションが似合う相田さんと違って、私はひょろっとした貧相な体形で、スカートが似合わない。今日だって無難なボーダーのカットソーにベージュのパンツ、スニーカーという格好だ。