相田さんがリードを乱暴に引っ張り、マロンが「キャウッ」と小さく鳴いた。智基くんの方を見たが、彼は気づいていないようで、背を向けたまま自販機を目指している。

 マロンは怒って、姿勢を低くして相田さんを睨み上げた。

「何よ、ババア犬のくせに生意気なのよ」

 相田さんがパンプスのかかとでマロンを蹴った。

 なんてひどい!

 マロンは唸り声を上げたが、相田さんが再び足を上げたのを見て、大きくうしろへ跳んだ。車道に着地したものの、相田さんがリードを強く引っ張り、マロンは抵抗するように、車道を中央の白線の方へと後ずさりする。そのとき、私の後方でエンジンのうなり声がした。パッと振り返ると、大型トラックが猛スピードで走ってくる。

 このままじゃマロンが危ない!

 私はとっさに駆け出し、相田さんに飛びついた。

「な、何!? なんで川口さんがこんなところにいるのよっ」

 相田さんが驚いてリードを引く手を緩めた。車道のマロンは智基くんの方へ走ろうとする。クラクションが鳴らされたが、トラックを気にも留めない。