その数日後、私は学生食堂でランチののったトレイを持ったまま、じっと立っていた。

 二メートルほど先、窓際の席には、四人掛けの席にひとりで座っている智基くんのうしろ姿がある。白いシャツに洗いざらしのジーンズという飾りっ気のない格好だが、それが逆に彼の爽やかさを引き立てている。彼に助けられたときのやりとりを思い出すと、胸がキュウッとなる。心臓なんてドキドキを通り越して破れそうなくらい激しく打っていて、息をするのも苦しいくらいだ。

 あのマンホールの一件以来、智基くんとは挨拶をし合う仲になった。でも、それだけ。『おはよう』とか『バイバイ』とか、そんな短い言葉を交わすだけだ。

 智基くんともう少しお近づきになりたい。私なんかが彼と付き合えるとは思っていないけど、もう少し……友達だと言ってもらえるくらいには仲良くなりたい。

 だから、智基くんがひとりでいる今こそチャンスだ。勇気を出して話しかけよう。がんばれ、私。行くんだ、私っ。

 深呼吸して決意を固め、思いきって一歩踏み出した。

「よ、横山く……」

 緊張しながら発した声を掻き消すように、左手から女子学生の明るい声が飛んでくる。

「と~もきくんっ! 隣空いてるぅ?」