いいよ、安心して。私が断ってあげる。相田さんが二度と智基くんに近づけないようにしてあげる。

 私は固い決意をして立ち上がった。一歩踏み出すと水を含んだ砂の中にスニーカーが沈み込む。ねちゃねちゃと不快な水音をさせながら湿った砂の上を歩き、公園を出た。智基くんたちがT字路を曲がるのが見えた。

 待ってて、智基くん、マロン。嘘つきの相田さんを追い払ってあげる。私が追い払ってあげる。

 ずんずん歩いて角を曲がると、ふたりと一匹はニ百メートルほど先を歩いていた。

 神社の前辺りで相田さんが足を止めた。ねだるような仕草で前方を指差し、何か言っている。智基くんは最初首を横に振ったが、相田さんが一歩詰め寄り、智基くんは仕方なさそうに相田さんにリードを渡した。何をするのかと見ていると、道路を渡って反対側の歩道を歩き始めた。少し先には自動販売機がある。相田さんが飲み物をねだったのだろう。

 私は大股で距離を詰めた。あと数メートルくらいのところになって、相田さんの独り言が聞こえてくる。

「ホント、最低。何がマロンの散歩よ。この私とふたりきりで家にいるっていうのに、時間ばっかり気にして。私をモノにできるチャンスだっていうのに信じらんない。それもこれも、マロン、あんたのせいよ」