「雨が上がったばかりなのにもう散歩に行くのぉ?」

 不満そうな相田さんの声だ。

「マロンの日課だからね。ほら、マロンも喜んでる」
「そうだけどぉ……」
「芽衣ちゃん、マロンの散歩がしたいって言ってたでしょ?」
「うん……。でも、雨上がりだとお気に入りのパンプスに水が跳ねちゃって……」

 ブツブツ言う相田さんの声が近づいてきた。

「それなら、駅まで送るから今日は帰る?」

 智基くんがリードを引いてマロンと歩きながら生垣の向こうを通り過ぎた。反対側の隣を相田さんが歩いているのが、生け垣の隙間から見える。

「せっかく来たのにそれはやだぁ」

 相田さんの甘えた声が遠ざかっていく。

 文句を言うならさっさと帰りなさいよ。私は本当に智基くんとマロンの散歩がしたいの。私なら楽しんでマロンと遊べる。靴が汚れるのなんか気にしない。あなたとは違うんだから。

 智基くん、いいかげん相田さんの本性に気づいてよ。あんな腹黒女とどうして一緒に散歩に行くの? ああ、そうか。智基くんのことだもん。本当は相田さんの本性はわかっているんだよね。でも、相田さんの押しが強すぎて断れないんだ。わかる、わかるよ。あの人、本当に一方的だもんね。