一心不乱に祈った。全身全霊で訴えた。願いを叶えてくれるならなんだっていい。どうなったっていい。

 必死に手を合わせていると、足元をさーっと風が吹き抜けた。ジーンズの裾から冷たい風が入って、濡れた手に掴まれたように足首がヒヤッとした。

 思わず身震いをして目を開けたが、本殿は日曜日に見たときのまま、しんとしている。

 夢中で祈ったせいか、額に汗が浮いていた。

 私は一度お辞儀をすると、参道を戻り始めた。どこかでカラスの陰気な鳴き声がする。空気が一段と寒くなり、えもいわれぬ不気味さに背筋を震わせたとき、頬にぽつっと冷たい何かが落ちてきた。

 見上げると、鉛色の空から雨が降り出していた。

「えっ、嘘ぉ」

 急いで参道のそばにある大きな木の下に逃げ込んだ。静かに冷たい雨が降り、薄暗くなった誰もいない場所にひとりでいると、わけもなく不安になる。

 雨が降ってきたら……マロンの散歩には行かないだろう。相田さんはきっと智基くんの家で雨宿りをしているに違いない。もしかしたら、家には誰もいないかも……。積極的な相田さんのことだ。智基くんの部屋に上がり込んでいるかもしれない。