ドアから降りて、ふたりに見つからないように自動販売機のそばに身を潜める。行き先はわかっているのだから、慌てる必要はない。ゆっくり二十数えてから改札に向かった。すでにふたりは駅舎を出ていて、歩道を歩いているのが見える。

『私、お母様に気に入られたみたい。“こんなかわいいお嬢さんが智基のお嫁さんに来てくれたらいいのに”って言われたんだよね~。智基くん、照れた顔してたわ。か~わいい』

 朝、相田さんに言われた言葉が耳に蘇る。

 智基くんのお母さん、相田さんの内面は外見ほどかわいくないんですよ。もっとよく人を見てください!

 心の中で、見たこともない智基くんのお母さんに語りかけながら、ふたりが角を曲がるのを見送った。改札を出て急ぎ足でふたりが消えた曲がり角に向かう。角に着いてそっと覗くと、ふたりは数寄屋門の前に立っていて、智基くんが格子戸を開けたところだった。

「どうぞ」

 遠くで小さく智基くんの声が聞こえた。マロンの鳴き声もする。

 マロンまで! 相田さんの外見に騙されないでよ!

 体中で嫉妬と怒りの炎が燃えている。イライラしながらしばらく見ていたが、ふたりとも数寄屋門から出てこない。