興味のないフリをして筆箱を開けながら、素っ気なく答えた。だけど、相田さんは勝手に話を続ける。

「古くて大きなおうちだったね。地元の名士って感じ? マロンは大きな犬だったなぁ。河原に行ってボール投げして、楽しかったな。川口さんも智基くんにボール投げさせてもらえたの?」
「うん」
「ふ~ん、そう」

 相田さんは人差し指で顎をトントンと叩いた。まだ何か言いたげだ。早くバッグをどけてほしい。

 顔を上げて相田さんを見ると、目が合った相田さんがニヤッと笑う。

「散歩から戻ったら、ちょうど智基くんのお母様が生け花教室から帰ってきたの。で、『かわいいお嬢さんね』って言われちゃった! それだけじゃなくて、誘われて晩ご飯をいただいたのよ」
「えっ」

 驚く私を見て、相田さんが勝ち誇った顔になる。

「今日もマロンに会いに行く約束をしたんだぁ。智基くんが私の彼氏になるのも、もう時間の問題よね~」

 その言葉を聞いて、嫌だという思いが強く込み上げてきた。

「そ、そんなの……わからないじゃない」
「え~、わかるよ~。それとも、なぁに、川口さんったら自分が智基くんの彼女になれるとでも思ってたの? うっわー、ずうずうしい。自意識過剰にもほどがあるでしょ。鏡見たことあるの? おかしいんじゃない」