「マロン、いい子いい子!」

 嬉しくなってマロンの首回りを指先でこちょこちょした。マロンが気持ちよさそうに目を細めるので、軽く掻いたり撫でたりしてみる。マロンがぺろりと私の頬を舐めた。

「ひゃぁ、くすぐったい!」

 でも、犬が舐めるのは愛情の証だと従姉に教えられた。

 智基くんが両手を膝について私たちに顔を近づける。

「マロンと実織ちゃん、気が合うみたいだね」
「嬉しいなぁ~」
「今度は俺がボールを投げるぞ」

 智基くんがボールをぽーんと投げた。それを追ってマロンが走り出す。マロンが振り返って智基くんを見るので、彼は嬉しそうに笑ってマロンを追いかけた。川面を渡る五月の風の中、ひとりと一匹がじゃれ合っている。

 それを見守っているうちに、胸に温かなものが広がっていく。なんて幸せな時間なんだろう。このままずっとふたりと一匹で一緒にいたい。

 けれど、ほどなくしてマロンが遊び疲れたようで、家に戻ることになった。

「マロン、よかったね。今日はいつもよりたくさん遊べた」

 智基くんがマロンの首にリードをつなぎながら言った。