智基くんが左手へと歩き始めたので、私も続いた。足音で気づいたのか、嬉しそうに吠えながら、ゴールデンレトリバーが姿を見せた。九歳という年齢のせいか、庭を駆けてくるというより、歩いてくるといった感じだ。けれど、その名にふさわしいゴールドブラウンの毛並みは艶があって美しい。

「マロン、ただいま!」

 智基くんが両手を広げながらしゃがみ、そこにマロンが飛びついた。智基くんはマロンを抱き留め、首筋から背中を撫でる。

「マロン、よしよし」

 そうやってしばらくマロンを撫でていたが、やがて立ち上がってマロンに私を紹介してくれる。

「今日は友達を連れてきたんだ。同じ大学の川口実織さんだよ」

 私は中腰になって、マロンの顔を覗き込んだ。茶褐色の利発そうな目が私を見返す。

「川口実織です。よろしくね、マロンちゃん。あ、私より年上だからマロンさんの方がいいのかな」

 マロンは私の顔に鼻を近づけ、ふんふんと匂いを嗅いだ。そうして一度、「ワン」と吠える。

「今日は実織ちゃんと一緒に散歩に行くんだよ」

 智基くんは言って、庭の隅の小型の倉庫に近づいた。扉を開けてゴールデンレトリバーの絵が描かれた小さなトートバッグを取り出す。どうやらそれに散歩セットが入っているらしく、中からリードを出した。