「どうして、と、とも、いえ、横山くんが私のことを知っているんですか!?」

 智基くんは不思議そうな表情になる。

「川口さんだって俺のこと、知ってくれてたよね?」

 屈託のない笑顔を向けられて、言葉に詰まる。

 私が智基くんのことを知っているのは、智基くんがイケメンで目立っていて、人気があるからだ。貧相な体型で女の子らしい格好が似合わない私のことを、どうして智基くんが知ってるの……?

 そう思って、ハッとした。身長が一七三センチもあってひょろっとしているから、智基くんとは逆の意味で目立っているのかもしれない。“ひょろ長い女子学生”として知られているのだとしたら、あまり嬉しくない。

 とはいえ、お礼を言わなければ、と姿勢を正す。

「あの、助けてくれてありがとうございました」

 ぺこりとお辞儀をすると、智基くんが一度うなずいた。

「たまたま近くを歩いていてよかったよ。あのマンホール、ちょっと危ないよね」
「あ、でも、ながら歩きをしていた私もいけないし……」

 智基くんは私が右手に持っているテキストに視線を移した。

「次の講義、計量経済学概論なの?」
「はい」
「じゃあ、俺と同じだ」
「え、そうなんですね」