私は従姉のゴールデンレトリバーが従姉の家にやってきたばかりのときのことを思い出した。柔らかな薄茶色の毛並み、つぶらな丸い瞳には、見た瞬間キュンとさせられたものだ。人懐っこくて優しくて、大きくなっても温和で従順な犬だった。

「そうだよね~……。従姉の家のゴールデンレトリバーも、すっごくかわいかった! 一目惚れしちゃうのもわかるな。相性とか、そういうのは運命的に決まってそうな気がする。きっとマロンも智基くんに一目惚れしたんじゃないかな」

 智基くんが、あはは、と声を出して笑った。運命的とか、ちょっとくさかったかな。でも、智基くんが嬉しそうだから、よしとしよう。

 駅からほどなくして閑静な住宅街に入り、五分ほどしたら一軒の日本家屋の前に到着した。家の周りは塀で囲まれていて、この辺りではかなり大きな方だ。数寄屋門と呼ばれる屋根のある門があって、表札には流麗な文字で“横山”と書かれていた。

「ここ?」

 立派な家に気後れしそうになる。

「うん、古いだけのうちだよ」

 智基くんは言って門の格子戸を開けた。一歩中に入ると飛び石の置かれた前庭があり、母屋へと続いている。

「マロンは庭にいるよ」