「あの、ね、じゃあ、私も、横山くんのこと、智基くんって呼んでもいい?」

 ドキドキしながら返事を待つ私に、智基くんがうなずいた。

「もちろんだよ」
「やった!」

 思わず言葉に出してしまい、ハッとして右手で口元を押さえた。そうして急いで言い訳をする。

「あの、その、もっと友達がほしいなって思ってたから、横山く、じゃなくて智基くんとも仲良くなれて嬉しいなって意味で……」
「うん、俺も実織ちゃんと仲良くなれて嬉しいよ」

 智基くんは笑顔で言ってペスカトーレを口に入れた。

 彼の言葉が頭の中でリピートして、嬉しすぎて身もだえしそうになる。今日は一緒に食事に行けて、名前で呼び合えることになった。勇気を出せば、願いは叶うのかもしれない。あと少し。あと一歩。

 私はオレンジジュースをゴクリと飲んで気持ちを落ち着かせた。そうしておもむろに口を開く。

「あの……よかったら今度……智基くんのゴールデンレトリバー、見せてもらえないかな?」
「え?」

 智基くんはフォークを動かしていた手を止めた。

「あ……ずうずうしかったよね。ごめん。従姉の犬が死んじゃってから、犬と過ごす機会がなくて。よかったらちょこっとでも触らせてもらえたらな~って思っただけで」