「あ、そこ、おいしいんだよね」
「よし、じゃあ、決まりだ」

 智基くんが促すように歩き出し、私は彼に続いた。胸が弾んで、それに呼応するように足取りも軽くなった。



 レストランは駅前の商店街を抜けた幹線道路沿いにあった。白い壁に赤茶色の屋根がおしゃれで、大きな窓から店内の様子が見える。カップルや学生グループに交じって、家族連れもチラホラ見られるが、満席ではなさそうだ。

「どうぞ」

 智基くんがドアを引いて開け、一歩下がって押さえた。どうして智基くんは入らないのかと、数秒間、まじまじと彼の顔を見る。

「お先にどうぞ」

 そう言われてやっとこれがレディファーストというものなのだと気づいた。

「あ、ありがとう」

 あたふたしながら彼の前を通って中に入る。

「いらっしゃいませ。おふたり様ですか?」

 アルバイトらしき女性店員に訊かれて、智基くんがうなずいた。

「こちらへどうぞ」

 店員に窓際の席に案内されたとき、智基くんが左側の椅子の背を持って、さっと引いた。

「川口さん、どうぞ」

 そう言って片手で座るよう合図する。

 ここでもレディファーストとは。スマートで手慣れた様子から、きっと女性とデートすることにも慣れているんだろうな、と思う。彼の外見や普段の様子を見れば、そんなこと一目瞭然だけど。