智基くんがふわりと微笑み、それだけで幸せな気持ちになる。それなのに、これから一緒に食事をできるなんて、幸せすぎてどうにかなってしまうんじゃないだろうか。

「川口さんは何食べたい?」

 智基くんに聞かれて、急いで思考を巡らせる。

「ええと……」

 なんでもいいって答えるのはよくないかな? でも、思いつかない。智基くんが苦手なものを提案するのは嫌だし。

「智基くんの……食べたいものがいい、かな」

 こんな返事でいいのだろうかとおずおずと見上げると、智基くんが困ったような笑顔になった。

「川口さんって、意外とかわいいこと言うんだね」

 その言葉に胸がきゅうんとなった。

 今、智基くん、私のことを『かわいい』って言ってくれた!? いや、言葉がかわいいってことだから! しかも『意外』って言われてるし!

 顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。

「あ、『意外』は失礼だったね。ごめん」

 智基くんはバツが悪そうな表情で言った。

「う、ううん……大丈夫」

 私はうつむき、智基くんの声が斜め上から振ってくる。

「そうだなぁ……イタリアンはどうかな? ここから近いところにある店なんだけど」

 智基くんが提案したのは、私も友達と行ったことがあるリーズナブルな店だった。