「なかなかのイケメンくんだったじゃない。川口さんの彼氏~?」
「ええっ、か、かか、彼氏だなんてとんでもないっ。恐れ多いですよっ」
「恐れ多いって……」

 店長さんは苦笑して続ける。

「普通、興味のない子を食事に誘ったりしないと思うけどな~。ほらほら、早く片づけして行ってあげなよ」

 店長さんに急かされ、私は顔を赤くしながらレジカウンターの上を片づけ始めた。隣では店長さんがレジを操作して今日の売り上げの確認を始める。

『普通、興味のない子を食事に誘ったりしないと思うけどな~』

 店長さんの言葉が頭の中でリピートされ、勝手に期待が膨らんでいく。

 “まさか”と“本当なら嬉しい”という気持ちの間で揺れながら、閉店作業を手伝った。


 それから五分ほどして、私は書店の裏口から出て表へと回った。智基くんは店の壁にもたれて、買ったばかりの『老犬の適切な飼い方ガイド』を読んでいる。真剣な横顔をこのまま眺めていたい……なんて思っていたら、智基くんの方が私に気づいて本を閉じた。

「川口さん、お疲れさま」
「あ、うん。ありがとう。お待たせしてごめんなさい」
「待ってないからそんなに気を遣わなくていいよ」