智基くんはビニール袋を受け取って、左手の腕時計をチラッと見た。それから私を見る。

「バイト、もうすぐ終わるの?」
「あ、うん。あとは片づけだけ」
「それなら……外で待ってるから、一緒に晩ご飯食べに行かない?」
「へ?」

 言われた言葉の意味が理解できず、口から間抜けな声がこぼれた。

 まさか、私が食事に誘われている? 智基くんに!?

 信じられなくて瞬きをしたら、智基くんが申し訳なさそうな表情になって、軽く後頭部を撫でた。

「あー、突然すぎたよね。予定があるならまた今度で……」
「な、ななな、ないですっ!」

 今度は食い気味に返事をしてしまい、スマートに対応できない自分が嫌になる。

 相田さんならきっとこんなに慌てない。もっとかわいらしく『誘ってくれてありがとう!』とか『嬉しい!』とか言いそうなのに……。

「それじゃ、待ってるから。バイトがんばって」

 智基くんが片手を軽く挙げて店を出て行った。信じられないのと嬉しいのとでその場で固まっていると、店長さんがそばに近づいてくる。四十歳近いふくよかな女性店長さんの顔はニヤニヤ笑っていた。